徒然草 第十五段

現代語訳

 どんな場所でも、しばらく旅行をしていると目から鱗が落ちて新しい扉が開く。

 旅先の周辺を「あっち、こっち」と見学して、田園や山里を歩けば、たくさんの未知との遭遇がある。それから、都心に送る絵はがきに「あれやこれを時間があるときにやっておくように」などと書き添えるのは格好がいい。

 旅先の澄んだ空気を吸うと心のアンテナの精度が上がる。身につけているアクセサリーなども、よい物はよく見え、芸達者な人や男前な人や素敵なお姉さんは普段よりも輝いて見える。

 お寺や、神社に内緒で引きこもっているのも、やはり渋い。

原文

 いづくにもあれ、しばし旅立ちたるこそ、目さむる心地すれ。

 そのわたり、こゝかしこ見ありき、田舎(ゐなかびたる所、山里などは、いと目慣れぬ事のみぞ多かる。都へ便り求めて(ふみやる、「その事、かの事、便宜(びんぎに忘るな」など言ひやるこそをかしけれ。

 さやうの所にてこそ、万に心づかひせらるれ。(てる調度まで、よきはよく、能ある人、かたちよき人も、常よりはをかしとこそ見ゆれ。

 寺・社などに忍びて籠りたるもをかし。

注釈

 便宜(びんぎ

  都合の良いとき。

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