徒然草 第六十二段

現代語訳

 悦子内親王が、小さなお嬢ちゃんだった頃、父上の隠居先を訪ねる人に「ことづて」と言って、渡した歌。

   「こ」は二本「ひ」は牛の角「し」を曲げて「く」にして繋ぐ 君のことだよ

 この歌は、「恋しく」思う歌なのである。

原文

 延政門院(えんせいもんゐん、いときなくおはしましける時、院へ参る人に、御言つてとて申させ給ひける御歌、

   ふたつ文字、牛の(つの文字、(ぐな文字、(ゆがみ文字とぞ君は覚ゆる

 恋しく思ひ参らせ給ふとなり。

注釈

 延政門院(えんせいもんゐん

  後嵯峨上皇の皇女、悦子内親王。この話は悦子内親王が六歳から十四歳の話である。

 院

  父、後嵯峨上皇の住む仙洞御所、二条富小路殿。

 ふたつ文字

  平仮名の「こ」の字。

 牛の角文字

  平仮名の「い」の字。「ひ」の字では無いらしい。

 直ぐな文字

  まっすぐな文字。平仮名の「し」の字。

 歪み文字

  平仮名の「く」の字。

 君は覚ゆる

  「お父様のことを恋しく思います」と詠んでいる。

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