徒然草 第百八十二段

現代語訳

 藤原隆親が、鮭トバを天皇の食卓に出したことがある。「このような得体の知れない物を陛下に食べさせるつもりか」と、ケチをつける人がいた。隆親は、「鮭という魚を、差し上げてはならないのであれば問題でもあるが、鮭を乾燥させて何が悪いのだ。鮎も天日干しにして差し上げるではないか」と反論したそうだ。

原文

 四条大納言(しでうのだいなごん隆親卿(たかちかのきやう乾鮭(からざけと言ふものを供御(くごに参らせられたりけるを、「かくあやしき物、(まゐ(やうあらじ」と人の申しけるを聞きて、大納言、「鮭といふ(うを、参らぬ事にてあらんにこそあれ、鮭の白乾(しらぼし、何条(なでふ事かあらん。(あゆの白乾しは参らぬかは」と申されけり。

注釈

 四条大納言(しでうのだいなごん隆親卿(たかちかのきやう

  藤原隆親。権大納言。料理人の家系に生まれる。

 乾鮭(からざけ

  鮭の内臓を取り、そのまま乾かしたもの。

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