徒然草 第二百三段

現代語訳

 朝廷から法によって裁かれる罪人の門に、矢を入れる靫を取り付ける習わしも、今ではなくなり、知る人もいない。天皇が病気の際や、世間に疫病が蔓延した際にも、五条天神に靫をかける。鞍馬寺の境内にある靫の明神も、靫をかける神である。判決の執行係が背負う靫を罪人の家にかけると、立ち入り禁止になる。この風習がなくなり、今では門に封をするようになった。

原文

 勅勘(ちよくかんの所に(ゆき(くる作法、今は絶えて、知れる人なし。主上(しゆしやう御悩(ごなう大方(おほかた、世中の騒がしき時は、五条の天神(てんじん(ゆきを懸けらる。鞍馬(くらま(ゆき明神(みやうじんといふも、(ゆき(けられたりける神なり。看督長(かどのをさの負ひたる(ゆきをその家に懸けられぬれば、人((らず。この事絶えて後、今の世には、(ふうを著くることになりにけり。

注釈

 勅勘(ちよくかん

  伊勢の皇大神宮のこと朝廷より咎められること。天皇のご機嫌を損ない法律で罰せられること。朝廷に出入り禁止になること。

 (ゆき

  矢を入れて背負う道具。

 五条の天神(てんじん

  京都市下京区天神前町にある疫病を治める神。大己貴命(おおあなむちのみこと少彦名神(すくなひこなのかみを祭る。

 鞍馬(くらま

  京都市左京区鞍馬本町にある鞍馬寺。

 (ゆき明神(みやうじん

  鞍馬寺の境内にある鞍馬町の氏神で、五条の天神と同様に大己貴命(おおあなむちのみこと少彦名神(すくなひこなのかみを祭る。

 看督長(かどのをさ

  検非違使庁の下級官僚で、在任の逮捕や牢獄の監視、強制執行の任務に当たった。

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