徒然草 第二十七段

現代語訳

 新しい皇帝が即位する儀式が行われ、三種の神器の「草薙剣」と「八坂瓊勾玉」と「八咫鏡」が譲渡される瞬間には、強い不安に襲われてしまう。

 皇帝を辞めて新院になる花園上皇が、その春に詠んだ歌。

   誰彼も他人になった春の日は 掃除のなき庭 花の絨毯

 みんな、新しい皇帝につきっきりで、上皇のところに遊びに行く人もいないのだろうが、やっぱり淋しそうだ。こんなときに人は本性を現す。

原文

 御国(みくに(ゆづりの節会(せちゑ行はれて、(けん(内侍所(ないしところ渡し奉らるるほどこそ、限りなう心ぼそけれ。

 新院の、おりゐさせ給ひての春、詠ませ給ひけるとかや。

   殿守(とのもりのとものみやつこよそにして掃はぬ庭に花ぞ散りしく

 今の世のこと繁きにまぎれて、院には参る人もなきぞさびしげなる。かゝる折にぞ、人の心もあらはれぬべき。

注釈

 御国(みくに(ゆづりの節会(せちゑ

  新しい皇帝の即位に当たって、前の皇帝から位を譲るための儀式と官僚へ賜る宴会のこと。

 (けん(内侍所(ないしところ

  三種の神器。草薙剣(くさなぎのつるぎ八坂瓊勾玉(やさかにのまがたま八咫鏡(やたのかがみのこと。

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