現代語訳
悦子内親王が、小さなお嬢ちゃんだった頃、父上の隠居先を訪ねる人に「ことづて」と言って、渡した歌。
「こ」は二本「ひ」は牛の角「し」を曲げて「く」にして繋ぐ 君のことだよ
この歌は、「恋しく」思う歌なのである。
原文
延政門院 、いときなくおはしましける時、院へ参る人に、御言つてとて申させ給ひける御歌、
ふたつ文字、牛の角 文字、直 ぐな文字、歪 み文字とぞ君は覚ゆる
恋しく思ひ参らせ給ふとなり。
注釈
後嵯峨上皇の皇女、悦子内親王。この話は悦子内親王が六歳から十四歳の話である。
院
父、後嵯峨上皇の住む仙洞御所、二条富小路殿。
ふたつ文字
平仮名の「こ」の字。
牛の角文字
平仮名の「い」の字。「ひ」の字では無いらしい。
直ぐな文字
まっすぐな文字。平仮名の「し」の字。
歪み文字
平仮名の「く」の字。
君は覚ゆる
「お父様のことを恋しく思います」と詠んでいる。