徒然草 第百八十一段

現代語訳

 「『ふれふれこ雪、たんばのこ雪』という童謡の歌詞がある。米を挽いてふるいにかけた粉が、雪に似ているから、粉雪と言うのだ。『丹波のこ雪』ではなく、『貯まれこ雪』と歌うのが正しいが、間違って『丹波の』と歌っているのだ。その後に『垣根や木の枝に』と続けて歌うのである」と、物知りな人が言っていた。

 昔から、こう歌われていたようだ。鳥羽院が幼かった頃、雪が降ると歌っていたと『讃岐典侍日記』にも書いてある。

原文

 「『降れ降れ粉雪、たんばの粉雪』といふ事、(よね((ふるひたるに似たれば、粉雪(こゆきといふ。『たンまれ粉雪』と言ふべきを、(あやまりて『たんばの』とは言ふなり。『(かきや木の(またに』と(うたふべし」と、(ある物知り申しき。

 昔より言ひける事にや。鳥羽院(とばゐん幼くおはしまして、雪の降るにかく仰せられける由、讃岐典侍(さぬきのすけ日記(にきに書きたり。

注釈

 鳥羽院(とばゐん

  鳥羽天皇。堀河天皇の第一子。

 讃岐典侍(さぬきのすけ

  藤原長子。歌人。堀河天皇に仕え典侍になる。堀河天皇の崩御の後、鳥羽天皇に使えた。

 日記(にき

  讃岐典侍日記。「『降れ降れこゆき』と、いはけなき御けはひにて仰せらるゝ聞こゆる。『こは誰そ。誰か子か』と思う程に、まことにさぞかし。思ふにあさましく、これを主とうち頼み参らせてさぶらはんずるかと、頼もしげなきぞあはれなる」と残している。

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