現代語訳
筆を手に取れば自然と何かを書きはじめ、楽器を手にすれば音を出したくなる。盃を持てば酒のことを考えてしまい、サイコロを転がしていると「入ります」という気分になってくる。心はいつも物に触れると躍り出す。だから冗談でもイケナイ遊びに手を出してはならない。
ほんの少しでも、お経の一節を見ていると、何となく前後の文も目に入ってくる。そして思いがけず長年の
現象と心は、別々の関係ではないのだ。外見だけでも、それらしくしていれば、必ず心の内面まで伝わってくる。だからハッタリだとバカにしてはならない。むしろ、
原文
筆を
執 れば物書 かれ、楽器を取 れば音 を立てんと思ふ。盃を取れば酒を思ひ、賽 を取れば攤 打 たん事を思ふ。心は、必ず、事に触 れて来 る。仮にも、不善の戯 れをなすべからず。
あからさまに聖教 の一句を見れば、何となく、前後の文 も見ゆ。卒爾 にして多年の非 を改むる事もあり。仮に、今、この文 を披げざらましかば、この事を知らんや。これ則 ち、触 るゝ所の益 なり。心更に起らずとも、仏前にありて、数珠 を取り、経 を取らば、怠 るうちにも善業 自 ら修 せられ、散乱 の心ながらも縄床 に座せば、覚 えずして禅定 成 るべし。
事 ・理 もとより二つならず。外相 もし背 かざれば、内証 必ず熟 す。強 ひて不信を言ふべからず。仰 ぎてこれを尊 むべし。