現代語訳
遍照寺の雑務坊主は、日頃から池の鳥を餌付けして飼い慣らしていた。鳥小屋の中まで餌を撒き、扉を一つ開けておくと、夥しいほどの鳥が誘き寄せられた。その後、自分も鳥小屋に入って鳥を閉じ込めると、捕獲しては殺し、殺しては捕獲した。その悲鳴がただ事では無いので、草むしりをする少年が、大人に言いつけた。村の男達がやって来て、鳥小屋の中に突入すると、大きな雁が翼をバタバタと必死に最後の抵抗をし合っていた。この中に坊主がいて、雁を地面に叩きつけ、首を捻って虐殺していたので、現行犯で逮捕された。判決が下りると、坊主は殺した鳥を首からぶら下げられて、豚箱にぶち込まれた。
久我基俊が、警視庁長官だった頃の話である。
原文
遍照寺 の承仕 法師 、池の鳥を日来 飼 ひつけて、堂の内まで餌 を撒 きて、戸一 つ開 けたれば、数も知らず入 り籠 りける後 、己 れも入 りて、たて籠 めて、捕 へつゝ殺しけるよそほひ、おどろおどろしく聞えけるを、草刈 る童 聞きて、人に告げければ、村の男どもおこりて、入りて見るに、大雁 どもふためき合へる中に、法師交りて、打ち伏せ、捩 ぢ殺しければ、この法師を捕へて、所より使庁 へ出 だしたりけり。殺す所の鳥を頸 に懸 けさせて、禁獄 せられにけり。
基俊 大納言 、別当 の時になん侍 りける。
注釈
京都市右京区嵯峨の広沢の池の西にあった真言宗の寺。
寺院の雑務をする出家者。
第九十九段の「御子基俊卿」で、久我基具の次男の基俊。権中納言。
検非違使庁の長官。