現代語訳
「何々のしきたり、という言葉は、後嵯峨天皇の時代までは言わなかった。最近派生した単語のようだ」と、ある人が言っていた。しかし、建礼門院の右京大夫が後鳥羽天皇の即位の後、再び宮仕えして、「世の中のしきたりは何も変わっていない」と書いていた。
原文
「
何事 の式 といふ事は、後嵯峨 の御代 までは言はざりけるを、近きほどより言ふ詞 なり」と人の申し侍 りしに、建礼門院 の右京大夫 、後鳥羽院 の御位 の後 、また内裏 住 みしたる事を言ふに、「世の式も変りたる事はなきにも」と書きたり。
注釈
後嵯峨天皇が在位した時代。一二四二年から一二四六年。
平清盛の次女。高倉天皇の中宮で平徳子。右京大夫は、徳子に仕えた女房で、父は能書家の藤原伊行。歌集に『建礼門院右京大夫集』がある。
後鳥羽天皇のこと。