現代語訳
安達泰盛は無双の名ジョッキーだった。厩舎から引かれる馬が障害物をひらりと飛び越えるのを見ると、「この馬は気性が荒い」と言って、鞍を他の馬に載せ換えた。また、脚を伸ばして障害物につまずく馬がいると、「この馬は運動神経が鈍い。事故が起こる」と言い、乗ることはなかった。
乗馬を知らない人は、ここまで用心しないだろう。
原文
城陸奥守 泰盛 は、双 なき馬乗りなりけり。馬を引き出させけるに、足を揃 へて閾 をゆらりと越ゆるを見ては、「これは勇める馬なり」とて、鞍 を置き換へさせけり。また、足を伸べて閾に蹴 当てぬれば、「これは鈍 くして、過 ちあるべし」とて、乗らざりけり。
道を知らざらん人、かばかり恐れなんや。
注釈
百八十四段の安達城介義景の三男。父を継ぎ秋田城介になる。霜月騒動を首謀する。