徒然草 第百八十五段

現代語訳

 安達泰盛は無双の名ジョッキーだった。厩舎から引かれる馬が障害物をひらりと飛び越えるのを見ると、「この馬は気性が荒い」と言って、鞍を他の馬に載せ換えた。また、脚を伸ばして障害物につまずく馬がいると、「この馬は運動神経が鈍い。事故が起こる」と言い、乗ることはなかった。

 乗馬を知らない人は、ここまで用心しないだろう。

原文

 城陸奥守(じやうのむつのかみ泰盛(やすもりは、(さうなき馬乗りなりけり。馬を引き出させけるに、足を(そろへて(しきみをゆらりと越ゆるを見ては、「これは勇める馬なり」とて、(くらを置き換へさせけり。また、足を伸べて閾に(当てぬれば、「これは(にぶくして、(あやまちあるべし」とて、乗らざりけり。

 道を知らざらん人、かばかり恐れなんや。

注釈

 城陸奥守(じやうのむつのかみ泰盛(やすもり

  百八十四段の安達城介義景の三男。父を継ぎ秋田城介になる。霜月騒動を首謀する。

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