現代語訳
知識の乏しい人が、他人を観察して、その人の知能の程度を分かったつもりでいたとしたら、全て見当違いである。
一般人で、碁しか取り柄の無い者が、碁が苦手な賢人を見つけ出し、「自分の才能には及ばない」と決めつけたり、各種の専門家が、自分の専門分野に詳しくないことを知り、「私は天才だ」と思い込むことは、どう考えても間違っている。経ばかり唱えている法師と、座禅ばかりしている法師が、お互いに牽制し合い、「私の修行の方が徳が深い」と思い合っているのは、どちらも正しくない。
自分とは関係ない世界にいる人と張り合うべきでなく、批判をしてはならない。
原文
くらき人の、人を
測 りて、その智 を知 れりと思はん、さらに当るべからず。
拙 き人の、碁 打つ事ばかりにさとく、巧みなるは、賢き人の、この芸におろかなるを見て、己 が智に及ばずと定めて、万 の道の匠 、我が道を人の知らざるを見て、己 すぐれたりと思はん事、大きなる誤りなるべし。文字 の法師、暗証 の禅師 、互 ひに測 りて、己 に如かずと思へる、共に当らず。
己 が境界 にあらざるものをば、争ふべからず、是非 すべからず。