現代語訳
比叡山の「大師最澄との誓約」というのは、良源僧正が書き始めたものである。「誓約書」は法律では取り扱わないものである。昔、聖徳太子の時代には、全て「誓約書」に基づいて行う政治はなかった。近年になり、宗教臭い政治が蔓延するようになった。
また、憲法では火や水にたいしては穢れを認めていない。容器に穢れがあるからだ。
原文
比叡山 に、大師勧請 の起請 といふ事は、慈恵僧正 書き始め給ひけるなり。起請文 といふ事、法曹 にはその沙汰 なし。古 の聖代 、すべて、起請文につきて行はるゝ政 はなきを、近代、この事流布 したるなり。
また、法令 には、水火 に穢 れを立てず。入物 には穢 れあるべし。
注釈
比叡山延暦寺のこと。
「大師」は比叡山延暦寺の開祖、伝教大師最澄。「勧請」は、大師の霊威を迎えること。「起請」とは、神仏と誓約し、もしその誓約を破れば罰を受けることを覚悟している旨を記した文章。
良源僧正。十二歳で比叡山に入山し、顕密二教の奥義を究める。五十五歳で第十八代の天台宗座主となり、叡山中興の祖と呼ばれた。