徒然草 第二百十八段

現代語訳

 狐は化けるだけでなく人に噛み付くものだ。久我大納言の屋敷では、寝ている召使いが足を噛まれた。仁和寺の本道では、夜道を歩く小坊主が、飛びかかる三匹に噛み殺されそうになった。刀を抜いてこれを避け、二匹を刺した。一匹を突き刺して殺したが、二匹に逃げられた。法師は散々噛まれたが、命に別状は無かった。

原文

 (きつねは人に食ひつくものなり。堀川殿(ほりかはどのにて、舎人(とねりが寝たる足を狐に食はる。仁和寺(にんわじにて、夜、本寺(ほんじの前を(とほ下法師(しもほふしに、狐三つ飛びかゝりて(ひつきければ、刀を抜きてこれを(ふせぐ間、狐二(ひきを突く。一つは突き殺しぬ。二つは逃げぬ。法師は、数多所食はれながら、事故(ことゆゑなかりけり。

注釈

 堀川殿(ほりかはどの

  久我通具(くがみちともの子孫が住む家で、場所は不明。堀川は。京の西、一条から九条へ流れる川。

 舎人(とねり

  ここでは、貴族の家来で、牛飼いや、馬の口引きを指す。

 仁和寺(にんわじ

  京都府左京区御室にある真言宗御室派の大本山。

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