現代語訳
狐は化けるだけでなく人に噛み付くものだ。久我大納言の屋敷では、寝ている召使いが足を噛まれた。仁和寺の本道では、夜道を歩く小坊主が、飛びかかる三匹に噛み殺されそうになった。刀を抜いてこれを避け、二匹を刺した。一匹を突き刺して殺したが、二匹に逃げられた。法師は散々噛まれたが、命に別状は無かった。
原文
狐 は人に食ひつくものなり。堀川殿 にて、舎人 が寝たる足を狐に食はる。仁和寺 にて、夜、本寺 の前を通 る下法師 に、狐三つ飛びかゝりて食 ひつきければ、刀を抜きてこれを防 ぐ間、狐二疋 を突く。一つは突き殺しぬ。二つは逃げぬ。法師は、数多所食はれながら、事故 なかりけり。
注釈
ここでは、貴族の家来で、牛飼いや、馬の口引きを指す。
京都府左京区御室にある真言宗御室派の大本山。