現代語訳
人は、無くても良い物を持ったりせず、欲張るのをやめて、貴金属も持たず、「他人が羨むようになりたい」などと考えないのが一番偉い。今日まで人格者が高額納税者になったなどという話は、お伽噺でしか聞いたことがない。
昔、中国に許由さんという人がいた。その人は身の回りの所持品がなかったから、水は手で
昔々の中国人は、こんなことが伝説に値すると思ったから本に書いたのだろう。この近所に住んでいる人なら、こんな話は素通りして語り伝えたりはしない。
原文
人は、
己 れをつゞまやかにし、奢 りを退けて、財 を持たず、世を貪らざらんぞ、いみじかるべき。昔より、賢き人の富 めるは稀 なり。
唐土 に許由 といひける人は、さらに、身にしたがへる貯 へもなくて、水をも手して捧 げて飲みけるを見て、なりひさこといふ物を人の得させたりければ、ある時、木の枝に懸けたりけるが、風に吹かれて鳴りけるを、かしかましとて捨てつ。また、手に掬 びてぞ水も飲みける。いかばかり、心のうち涼しかりけん。孫晨 は、冬の月に衾なくて、藁 一束 ありけるを、夕べにはこれに臥 し、朝 には収 めけり。
唐土 の人は、これをいみじと思へばこそ、記 し止めて世にも伝へけめ、これらの人は、語りも伝ふべからず。
注釈
昔の中国。
中国古代の三皇五帝時代の人と伝わる、伝説の隠者。
『古注蒙求』に「