現代語訳
雪が気持ちよさそうに降った朝、人にお願いがあって手紙を書いた。手短に済ませて、雪のことは書かずに投函したら返事が来た。「雪であなたはどんな気分でしょうか? ぐらいのことも書けない、気の利かない奴のお願いなんて聞く耳を持ちません。本当につまらない男だ」と書いてあった。読み返して感動し、鳥肌が立った。
もう死んだ人だから、こんなことさえも大切な想い出だ。
原文
雪のおもしろう降りたりし
朝 、人のがり言ふべき事ありて、文 をやるとて、雪のこと何 とも言はざりし返事 に、「この雪いかゞ見ると一筆 のたまはせぬほどの、ひがひがしからん人の仰 せらるゝ事、聞き入るべきかは。返 す返 す口をしき御心なり」と言ひたりしこそ、をかしかりしか。
今は亡 き人なれば、かばかりのことも忘れがたし。