現代語訳
皇居を改築する際に、構造計算の専門家に検査してもらったところ「良くできています。全く問題ありません」と太鼓判をもらった。皇帝の引っ越しも間近になった頃、伏見天皇のお母さんが、新築物件を見て「昔の皇居にあった覗き穴は、上が丸くて縁もありませんでした」と、少女時代の記憶を語り出したので、大変なことになった。
新しい覗き穴は、上が木の葉のように尖っていて、しかも縁取られていたので、欠陥住宅ということになり、造り直しになった。
原文
今の内裏作り出されて、有職の人々に見せられけるに、いづくも難なしとて、既に遷幸の日近く成りけるに、玄輝門院の御覧じて、「閑院殿の櫛形の穴は、丸く、縁もなくてぞありし」と仰せられける、いみじかりけり。
これは、葉の入りて、木にて縁をしたりければ、あやまりにて、なほされにけり。
注釈
今の内裏
二条富小路内裏のこと。
有職
公家の儀式等の知識と、それに詳しい者。
遷幸
二条内裏にいた花園天皇が新しい内裏に引っ越しすること。
玄輝門院
藤原愔子。後深草天皇の后、伏見天皇の母。
閑院殿
臨時に設けた皇居の一つ。