現代語訳
ある人が法然上人に「念仏を唱えているとき、睡魔におそわれ仏道修行をおろそかにしてしまうことがあるのですが、どうしたら、この問題を解決できるでしょうか?」と訪ねたら「目が覚めているときに、念仏を唱えなさい」と答えたそうな。とってもありがたいお言葉である。
また、「死後に天国に行けると思えば、きっと行けるだろうし、行けないと思えば無理だ」と言ったそうな。これも、とってもありがたいお言葉である。
それから、「死後に天国に行けるかどうか心配しながらでも、念仏を唱えていれば、成仏できる」と言ったそうな。これまた、とってもありがたいお言葉である。
原文
或人、
法然 上人 に、「念仏の時、睡 にをかされて、行 を怠 り侍 る事、いかゞして、この障 りを止 め侍らん」と申しければ、「目の醒 めたらんほど、念仏し給へ」と答 へられたりける、いと尊 かりけり。
また、「往生 は、一定 と思へば一定、不定 と思へば不定なり」と言はれけり。これも尊し。
また、「疑ひながらも、念仏すれば、往生す」とも言はれけり。これもまた尊し。
注釈
本名は源空、法然房と名乗った。岡山生まれのお坊さん。浄土宗を開いた。
現世での命が終わり、極楽浄土で永遠の生命を得ること。
確実の意味。
一定の反意語。不確実の意味。