現代語訳
天皇の正妻や二号、愛人が出産する際に、炊飯器を転げ落とす儀式は必須ではない。後産が長引かないようにする、単なるまじないなのだ。安産であれば必要ない。
元は庶民の風習であり、何の根拠もない。大原の里から炊飯器を取り寄せるのだが、これは「大原」と「大腹」の駄洒落である。宝物殿に安置してある古いタブローに、貧乏人の出産時に、炊飯器を転がしている様子が残っている。
原文
御産 の時、甑 落す事は、定 まれる事にあらず。御胞衣 とゞこほる時のまじなひなり。とゞこほらせ給はねば、この事なし。
下ざまより事起りて、させる本説 なし。大原 の里の甑 を召すなり。古き宝蔵 の絵に、賎 しき人の子産みたる所に、甑落したるを書きたり。
注釈
宮中の高貴な方が、皇太子、皇女を出産すること。
瓦製の米を炊く道具。
胎児を包んでいる膜や胎盤。出産後に下りてくることから後産とも呼ぶ。
京都市左京区大原。「大原」と「大腹」をかけている。
宝物をしまう蔵。