徒然草 第百四十六段

現代語訳

 明雲住職が、人相見に向かって、「私は、もしかして武器関係の災難と関わりがあるだろうか?」と訊ねた。人相見は、「おっしゃるとおり、その相が出ています」と答えた。「どんな相が出ているのだ」と問いつめると、「戦争で怪我の恐れがない身分でありますのに、たとえ妄想でもそのような心配をして訊ねるのですから、これはもう危険な証拠です」と答えた。

 やはり、明雲住職は矢に当たって死んだ。

原文

 明雲(めいうん座主(ざす相者(さうじやにあひ給ひて、「(おのれ、もし兵杖(ひやうぢやうの難やある」と尋ね給ひければ、相人(さうにん、「まことに、その(さうおはします」と申す。「如何(いかなる相ぞ」と(たづね給ひければ、「傷害(しやうがい(おそれおはしますまじき御身にて、仮にも、かく思し寄りて、尋ね給ふ、これ、(すでに、その(あやぶみの(きざしなり」と申しけり。

 果して、矢に当りて(せ給ひにけり。

注釈

 明雲(めいうん座主(ざす

  「座主」は優れた僧侶で、延暦寺、金剛寺、醍醐寺などの大寺の住職。「明雲」は、久我大納言顕道の次男。一一八三年の法住寺合戦の際に流れ矢に当たって死ぬ。

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