現代語訳
明雲住職が、人相見に向かって、「私は、もしかして武器関係の災難と関わりがあるだろうか?」と訊ねた。人相見は、「おっしゃるとおり、その相が出ています」と答えた。「どんな相が出ているのだ」と問いつめると、「戦争で怪我の恐れがない身分でありますのに、たとえ妄想でもそのような心配をして訊ねるのですから、これはもう危険な証拠です」と答えた。
やはり、明雲住職は矢に当たって死んだ。
原文
明雲 座主 、相者 にあひ給ひて、「己 れ、もし兵杖 の難やある」と尋ね給ひければ、相人 、「まことに、その相 おはします」と申す。「如何 なる相ぞ」と尋 ね給ひければ、「傷害 の恐 れおはしますまじき御身にて、仮にも、かく思し寄りて、尋ね給ふ、これ、既 に、その危 ぶみの兆 なり」と申しけり。
果して、矢に当りて失 せ給ひにけり。
注釈
「座主」は優れた僧侶で、延暦寺、金剛寺、醍醐寺などの大寺の住職。「明雲」は、久我大納言顕道の次男。一一八三年の法住寺合戦の際に流れ矢に当たって死ぬ。