現代語訳
西大寺の静然上人は腰が曲がり眉も真っ白だった。何とも尊いオーラを発散させながら宮中にやって来たので、西園寺実衡内大臣は、「何という尊さだ」と羨望の眼差しを向けた。これを見た日野資朝卿が、「ただ老人でヨボヨボなだけです」と言った。
何日か経って、資朝は毛が抜けてヨレヨレになり、醜く年取った犬を連れてきて、「大変尊い姿でございます」と、内大臣にプレゼントした。
原文
西大寺 静然 上人 、腰屈 まり、眉 白く、まことに徳たけたる有様にて、内裏 へ参られたりけるを、西園寺 内大臣殿、「あな尊の気色 や」とて、信仰 の気色 ありければ、資朝卿 、これを見て、「年の寄りたるに候ふ」と申されけり。
後日 に、尨 犬のあさましく老いさらぼひて、毛剥げたるを曳かせて、「この気色 尊 く見えて候ふ」とて、内府 へ参 らせられたりけるとぞ。
注釈
奈良市西大寺町にある現在の真言律宗の本山。
復元された西大寺、四番目の長老。
第八十三段の「竹林院入道左大臣殿」の息子で、
日野資朝。中納言となり、後醍醐天皇の鎌倉幕府追討のクーデター計画が知れて佐渡島に流された。元弘の乱の勃発により配所で斬られる。