現代語訳
「盃の底に残ったお酒を捨てるのはどうしてか知っているか?」と、ある人が訊ねた。「凝当と申しますから、底に溜まっている酒を捨てるという意味でしょうか」と答えた。すると「それは違う。魚道と言って、魚が生まれた川に帰るように、口をつけた部分を洗い流すことだ」と教えてくれた。
原文
「
盃 の底を捨 つる事は、いかゞ心得 たる」と、或人の尋ねさせ給ひしに、「凝当 と申し侍 れば、底に凝 りたるを捨つるにや候 ふらん」と申し侍りしかば、「さにはあらず。魚道 なり。流れを残して、口の附きたる所を滌ぐなり」とぞ仰 せられし。
注釈
「当」は底の意味で「凝」は凝り固まる。一カ所に集まって溜まっていること。
「魚道ハ、残盃ヲ器ニ