現代語訳
「『ふれふれこ雪、たんばのこ雪』という童謡の歌詞がある。米を挽いてふるいにかけた粉が、雪に似ているから、粉雪と言うのだ。『丹波のこ雪』ではなく、『貯まれこ雪』と歌うのが正しいが、間違って『丹波の』と歌っているのだ。その後に『垣根や木の枝に』と続けて歌うのである」と、物知りな人が言っていた。
昔から、こう歌われていたようだ。鳥羽院が幼かった頃、雪が降ると歌っていたと『讃岐典侍日記』にも書いてある。
原文
「『降れ降れ粉雪、たんばの粉雪』といふ事、
米 搗 き篩 ひたるに似たれば、粉雪 といふ。『たンまれ粉雪』と言ふべきを、誤 りて『たんばの』とは言ふなり。『垣 や木の股 に』と謡 ふべし」と、或 物知り申しき。
昔より言ひける事にや。鳥羽院 幼くおはしまして、雪の降るにかく仰せられける由、讃岐典侍 が日記 に書きたり。
注釈
鳥羽天皇。堀河天皇の第一子。
藤原長子。歌人。堀河天皇に仕え典侍になる。堀河天皇の崩御の後、鳥羽天皇に使えた。
讃岐典侍日記。「『降れ降れこゆき』と、いはけなき御けはひにて仰せらるゝ聞こゆる。『こは誰そ。誰か子か』と思う程に、まことにさぞかし。思ふにあさましく、これを主とうち頼み参らせてさぶらはんずるかと、頼もしげなきぞあはれなる」と残している。