現代語訳
他人の田んぼの所有権を求めて訴えていた人が、裁判に負けた。悔しさ余って、「その田を収穫前に全部刈り取れ」と、召使いに命令した。召使いは、手当たり次第、通り道にある田を刈りながら進むので、「ここは、訴訟で負けた田では無いのに、どうして、こんなに無茶をするのだ」と、問われた。田を刈る召使いは、「起訴して負けた田であっても、刈り取って良いという理由はありませんが、どうせ悪事を働きに来たのだから、手当たり次第、刈り取るのです」と言った。
その屁理屈も一理ある。
原文
人の田を論ずる者、
訴 へに負けて、ねたさに、「その田を刈 りて取れ」とて、人を遣しけるに、先づ、道すがらの田をさへ刈 りもて行くを、「これは論じ給ふ所にあらず。いかにかくは」と言ひければ、刈 る者ども、「その所とても刈 るべき理 なけれども、僻事 せんとて罷る者なれば、いづくをか刈 らざらん」とぞ言ひける。
理 、いとをかしかりけり。