現代語訳
蟻のように群れをなし、西へ、東へ猛スピード、南へ、北へ超特急。社会的身分の高い人もいる。貧乏人もいる。老人もいる。小僧もいる。出勤する場所があって、帰る家もある。夜に眠くなり、朝に目覚める。この人達は何をしているのだろうか。節操もなく長生きを欲しがり、利益は高利回りだ。もう止まらない。
養生しながら「何かいいことないか」と、呟きながら果報を待つ。とどの詰まりは、ただ老いぼれて死ぬだけだ。老いぼれて死ぬ瞬間は、あっという間で、思いの刹那が留まる事もない。老いぼれて死ぬのを待っている間に何か楽しい事でもあるのだろうか? 迷える子羊は老いぼれて死ぬのを恐がらない。名前を売る為に忙しく金儲けに溺れて、命の終点が近い事を知らないのだ。それでいてバカだから死ぬのを悲しむ。この世は何も変わらないと勘違いし、運命の大河に流されているのを感じていないからだ。
原文
蟻 の如 くに集まりて、東西に急 ぎ、南北に走 る人、高きあり、賤 しきあり。老いたるあり、若きあり。行く所あり、帰る家あり。夕 に寝 ねて、朝 に起く。いとなむ所何事ぞや。生 を貪 り、利を求 めて、止 む時なし。
身を養ひて、何事をか待つ。期 する処 、たゞ、老 と死とにあり。その来 る事速 かにして、念々の間に止 まらず。これを待つ間、何の楽しびかあらん。惑 へる者は、これを恐れず。名利 に溺 れて、先途 の近き事を顧 みねばなり。愚 かなる人は、また、これを悲しぶ。常住 ならんことを思ひて、変化 の理 を知らねばなり。
注釈
常に同じ状態で有り続けること。
上記の「常住」の反意語。全てが絶えることなく変化し続けること。