現代語訳
堀川の太政大臣は、金を持っている色男で、何事につけても派手好みだった。次男の基俊を防衛大臣に任命して黒幕になり勤めに励んだ。太政大臣は庁舎にある収納家具を見て「目障りだから派手な物に造りかえなさい」と命じた。「この家具は、古き良き時代から代々受け継がれている物で、いつの物だか誰も知りません。数百年前のアンティークあって、ボロボロだから価値があります。そう簡単には造り直しができません」と、古いしきたりに詳しい職員が説明すると、それで済んだ。
原文
堀川相国 は、美男 のたのしき人にて、そのこととなく過差 を好 み給ひけり。御子 基俊卿 を大理 になして、庁務 行はれけるに、庁屋 の唐櫃 見苦 しとて、めでたく作り改めらるべき由仰せられけるに、この唐櫃は、上古 より伝はりて、その始めを知らず、数百 年を経たり。累代 の公物 、古弊 をもちて規模 とす。たやすく改められ難き由、故実 の諸官等申しければ、その事止 みにけり。
注釈
久我基具。
基具の次男の基俊。権中納言。
検非違使庁の長官のこと。
検非違使庁の業務。
検非違使庁の庁舎。この頃は、私邸が庁舎として使われていた。
衣類や調度品を収納するための長方形の櫃。