徒然草 第百段

現代語訳

 久我の太政大臣が、皇居の関係者以外立ち入り禁止の間で水を飲もうとしたら、女官が焼き物のカップを持ってきた。太政大臣は「柄杓を持ってきなさい」と言って、それで飲んだ。

原文

 久我相国(こがのしやうこくは、殿上(てんじやうにて水を召しけるに、主殿司(とのもづかさ土器(かはらけ(たてまつりければ、「まがりを参らせよ」とて、まがりしてぞ召しける。

注釈

 久我相国(こがのしやうこく

  久我通光(くがみちみつ。太政大臣。歌人として多くの勅撰和歌集に入集。

 殿上(てんじやう

  清涼殿の殿上の間。公家や殿上人だけが伺候できる。

 大理(だいり

  検非違使庁の長官のこと。

 主殿司(とのもづかさ

  主殿司に属し雑務を受け持つ女官。

 土器(かはらけ

  素焼きの器や杯のこと。

 まがり

  不詳。酒や水を飲む器と思われる。

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