現代語訳
鎌倉の海を泳いでいる鰹という魚は、この地方では高級魚として最近の流行になっている。その鰹も、鎌倉の爺様が言うには「この魚も、おいら達が若い頃には、真っ当な人間の食卓に出ることも無かったべよ。頭はゴミあさりでも切り取って捨てていたっぺ」と話していた。
そんな魚も世紀末になれば、金持ちの食卓に出されるようになった。
原文
鎌倉の海に、
鰹 と言ふ魚は、かの境 ひには、さうなきものにて、この比もてなすものなり。それも、鎌倉の年寄の申し侍 りしは、「この魚、己れら若かりし世までは、はかばかしき人の前へ出 づる事侍らざりき。頭 は、下部 も食はず、切りて捨て侍りしものなり」と申しき。
かやうの物も、世の末になれば、上 ざままでも入りたつわざにこそ侍れ。
注釈
鎌倉
神奈川県鎌倉市。鎌倉幕府が置かれた都市。
スズキ目・サバ科に属する魚の一種。