現代語訳
占い師の安倍有宗が、鎌倉から上京し訪ねて来た。門に足を踏み入れると、まず一言「この庭は無駄に広い。何の工夫もなく、けしからぬ。少し頭を使えば、何かを栽培できるだろうに。小径を一本残して、あとは畑に作りかえろ」と説教した。
もっともな話である。少しの土地でも荒れ地にしておくのはもったいない。食べ物や薬でも植えた方がましだ。
原文
陰陽師 有宗入道 、鎌倉より上りて、尋ねまうで来 りしが、先づさし入 りて、「この庭のいたすらに広きこと、あさましく、あるべからぬ事なり。道を知る者は、植 うる事を努む。細道一つ残して、皆、畠 に作り給へ」と諌め侍りき。
まことに、少しの地をもいたづらに置かんことは、益 なき事なり。食ふ物・薬種 など植ゑ置くべし。
注釈
陰陽寮に属した占筮及び地相などを司った。占い師。
阿倍有宗。陰陽頭。平安中期の有名な占い師で、安倍晴明、十代目の子孫に当たる。