現代語訳
若者は血の気が多く、心がモヤモヤしていて、何にでも発情する。危険な遊びを好み、いつ壊れてもおかしくないのは、転がっていく卵のようだ。綺麗な姉ちゃんに狂って、貯金を使い果たしたかと思えば、それも捨て、托鉢の真似事などをしだす。有り余った体力の捌け口に喧嘩ばかりして、プライドだけは高く、羨んだり、好んだり、気まぐれで、浮気ばかりしている。そして、性愛に溺れ、人情に脆い。好き勝手に人生を歩み、犬死にした英雄の伝説に憧れて、自分もギリギリの人生を送りたいと思うのだが、結局は、世の末まで恥ずべき汚点を残す。このように進路を誤るのは、若気の至りである。
一方、老人は、やる気がなく、気持ちも淡泊で細かいことを気にせず、いちいち動揺しない。心が平坦だから、意味の無い事もしない。健康に気を遣い、病院が大好きで、面倒な事に関わらないように注意している。年寄りの知恵が若造に秀でているのは、若造の見てくれが老人よりマシなのと同じである。
原文
若き時は、
血気 内 に余り、心、物に動きて、情欲多し。身を危 めて、砕 け易 き事、珠 を走らしむるに似たり。美麗 を好みて宝を費 し、これを捨てて苔 の袂 に窶 れ、勇める心盛りにして、物と争ひ、心に恥ぢ羨み、好む所日々に定まらず、色に耽り、情にめで、行ひを潔くして、百年 の身を誤り、命を失へる例願はしくして、身の全 く、久しからん事をば思はず、好 ける方 に心ひきて、永き世語りともなる。身を誤 つ事は、若き時のしわざなり。
老いぬる人は、精神 衰 へ、淡 く疎 かにして、感じ動く所なし。心自 ら静かなれば、無益 のわざを為さず、身を助けて愁 へなく、人の煩 ひなからん事を思ふ。老いて、智の、若きにまされる事、若くして、かたちの、老いたるにまされるが如し。