徒然草 第十三段

現代語訳

 ひとり淋しく懐中電灯の下で本を広げて、昔の文筆家たちと友情関係を育むことは、安心できて、楽しさのあまり心臓が停止してしまうぐらいに心が穏やかになる。

 読書では、昭明太子が選んだのめり込みそうな詩集たちや、白楽天の詩や、老子のありがたい言葉や、荘周の道徳本などがよい。ニッポンの偉い先生方が書いたものだと、古い時代に書かれたものであれば信頼できるものも多い。

原文

 ひとり、(ともしびのもとに(ふみをひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。

 (ふみは、文選(もんぜんのあはれなる巻々、白氏文集(はくしもんじゆう、老子のことば、南華(なんくわの篇。この国の博士(はかせどもの書ける物も、いにしへのは、あはれなること多かり。

注釈

 文選(もんぜん

  中国南北朝時代、梁の昭明太子によって編纂された詩文集。

 白氏文集(はくしもんじゆう

  唐の文学者、白楽天(はくらくてん白居易(はくきょい)の詩文集。

 老子

  春秋時代の思想家。または老子によって記された『老子道徳経』のこと。

 南華(なんくわ

  『荘子』のこと。荘周の著書とされる道家の文献。『南華真経』とも。「南華(なんか」は荘子が隠棲した地の名前

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