現代語訳
朝廷から法によって裁かれる罪人の門に、矢を入れる靫を取り付ける習わしも、今ではなくなり、知る人もいない。天皇が病気の際や、世間に疫病が蔓延した際にも、五条天神に靫をかける。鞍馬寺の境内にある靫の明神も、靫をかける神である。判決の執行係が背負う靫を罪人の家にかけると、立ち入り禁止になる。この風習がなくなり、今では門に封をするようになった。
原文
勅勘 の所に靫 懸 くる作法、今は絶えて、知れる人なし。主上 の御悩 、大方 、世中の騒がしき時は、五条の天神 に靫 を懸けらる。鞍馬 に靫 の明神 といふも、靫 懸 けられたりける神なり。看督長 の負ひたる靫 をその家に懸けられぬれば、人出 で入 らず。この事絶えて後、今の世には、封 を著くることになりにけり。
注釈
伊勢の皇大神宮のこと朝廷より咎められること。天皇のご機嫌を損ない法律で罰せられること。朝廷に出入り禁止になること。
矢を入れて背負う道具。
五条の
京都市下京区天神前町にある疫病を治める神。
京都市左京区鞍馬本町にある鞍馬寺。
鞍馬寺の境内にある鞍馬町の氏神で、五条の天神と同様に
検非違使庁の下級官僚で、在任の逮捕や牢獄の監視、強制執行の任務に当たった。