もくじ

つれづれぐさ上

序段~第十段

序段 つれづれなるまゝに、日くらし、(すずりにむかひて、心に移りゆくよしなし事を………………
第一段 いでや、この世に生れては、願はしかるべき事こそ多かンめれ。
第二段 いにしへのひじりの御代(みよ(まつりごとをも忘れ、民の(うれへ、国のそこなはるゝをも知らず………………
第三段 (よろづにいみじくとも、色好まざらん男は、いとさうざうしく、玉の(さかづき(そこなき心地ぞすべき。
第四段 (のちの世の事、心に忘れず、(ほとけの道うとからぬ、心にくし。
第五段 不幸に(うれへに沈める人の、(かしらおろしなどふつゝかに思ひとりたるにはあらで、あるかなきかに………………
第六段 (さき中書王(ちゆうしよわう・九条大政大臣(だいじようだいじん花園左大臣(はなぞのさだいじん、みな、(ぞう絶えむことを願い給へり。
第七段 あだし野の露消ゆる時なく、鳥部山(とりべやま(けぶり立ち去らでのみ住み果つる習ひならば、いかにもののあはれもなからん。
第八段 世の人の心惑はす事、色欲(しきよくには如かず。人の心は(おろかなるものかな。
第九段 女は、髪のめでたからんこそ、人の目立つべかンめれ、人のほど・心ばへなどは、もの言ひたるけはひにこそ、物越(ものごしにも知らるれ。
第十段 家居(いえゐのつきづきしく、あらまほしきこそ、(かり宿(やどりとは思へど、興あるものなれ。

第十一段~第二十段

第十一段 神無月(かみなづき(ころ栗栖野(くるすのといふ所を過ぎて、ある山里に尋ね(る事(はべりしに、(はるかなる(こけの細道を踏み分けて………………
第十二段 同じ心ならん人としめやかに物語して、をかしき事も、世のはかなき事も、うらなく言ひ(なぐさまんこそうれしかるべきに………………
第十三段 ひとり、(ともしびのもとに(ふみをひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。
第十四段 和歌こそ、なほをかしきものなれ。あやしのしづ・山がつのしわざも、言ひ出でつればおもしろく、おそろしき(のししも………………
第十五段 いづくにもあれ、しばし旅立ちたるこそ、目さむる心地すれ。
第十六段 神楽(かぐらこそ、なまめかしく、おもしろけれ。
第十七段 山寺にかきこもりて、仏に(つかうまつるこそ、つれづれもなく、心の(にごりも(きよまる心地すれ。
第十八段 人は、(おのれれをつゞまやかにし、(おごりを退けて、(たからを持たず、世を貪らざらんぞ、いみじかるべき。
第十九段 折節の移り変るこそ、ものごとにあはれなれ。
第二十段 (なにがしとかやいひし世捨人(よすてびとの、「この世のほだし持たらぬ身に、ただ、空の名残(なごりのみぞ(しき」と(ひしこそ、まことに、さも覚えぬべけれ。

第二十一段~第三十段

第二十一段 (よろづのことは、月見るにこそ、(なぐさむものなれ。ある人の、「月ばかり面白(おもしろきものはあらじ」と言ひしに、またひとり………………
第二十二段 何事も、古き世のみぞ(したはしき。
第二十三段 衰へたる末の世とはいへど、なほ、九重(ここのへの神さびたる有様こそ、世づかず、めでたきものなれ。
第二十四段 斎宮(さいわうの、野宮(ののみやにおはしますありさまこそ、やさしく、面白き事の限りとは覚えしか。
第二十五段 飛鳥川(あすかがは淵瀬(ふちせ、常ならぬ世にしあれば、時移り、事去り、楽しび、悲しび行きかひて………………
第二十六段 風も吹きあへずうつろふ、人の心の花に、馴れにし年月を思へば、あはれと聞きし(ことの葉ごとに忘れぬものから………………
第二十七段 御国(みくに(ゆづりの節会(せちゑ行はれて、(けん(内侍所(ないしところ渡し奉らるるほどこそ、限りなう心ぼそけれ。
第二十八段 諒闇(りやうあんの年ばかり、あはれなることはあらじ。
第二十九段 静かに思へば、万に、過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき。
第三十段 人の((あとばかり、悲しきはなし。

第三十一段~第四十段

第三十一段 雪のおもしろう降りたりし(あした、人のがり言ふべき事ありて………………
第三十二段 九月(ながつき廿日(はつかの比、ある人に誘はれたてまつりて、明くるまで月見ありく事(はべりしに………………
第三十三段 今の内裏(だいり作り(いだされて、有職(いうそくの人々に見せられけるに………………
第三十四段 甲香(かひこうは、ほら貝のやうなるが、小さくて、口のほどの細長にさし(でたる貝の(ふたなり。
第三十五段 手のわろき人の、はゞからず、(ふみ書き散らすは、よし。見ぐるしとて、人に書かするは、うるさし。
第三十六段 「久しくおとづれぬ比、いかばかり恨むらんと、我が怠り思ひ知られて、言葉(ことのはなき心地するに、女の(かたより………………
第三十七段 朝夕、隔てなく(れたる人の、ともある時、我に心おき、ひきつくろへるさまに見ゆるこそ………………
第三十八段 名利(みやうりに使はれて、(しづかなる(いとまなく、一生を苦しむるこそ、(おろかなれ。
第三十九段 或人、法然(ほふねん上人(しやうにんに、「念仏の時、(ねぶにをかされて、(ぎやう(おこた(はべる事、いかゞして、この(さはりを(め侍らん」と申しければ………………
第四十段 因幡国(いなばのくにに、何の入道とかやいふ者の娘、かたちよしと聞きて、人あまた言ひわたりけれども………………

第四十一段~第五十段

第四十一段 五月(さつき五日、賀茂(かも(くらべべ馬を見侍りしに、車の前に雑人(ざふにん立ち隔てて見えざりしかば………………
第四十二段 唐橋中将雅清(からはしのちゆうじやうといふ人の子に、行雅僧都(ぎやうがそうづとて、教相(けうさうの人の師する僧ありけり。
第四十三段 春の暮つかた、のどやかに(えんなる空に、(いやしからぬ家の、………………
第四十四段 あやしの竹の編戸(あみどのうちより、いと若き男の、月影に色あひさだかならねど、つやゝかなる狩衣(かりぎぬに濃き指貫(さしぬき、いとゆゑづきたるさまにて………………
第四十五段 (ぼう(かたはらに、大きなる(の木のありければ、人、「榎木僧正(えのきのそうじやう」とぞ言ひける。
第四十六段 柳原(やなぎはら(ほとりに、強盗(ごうとうの法印と(かうする僧ありけり。度々(たびたび強盗にあひたるゆゑに、この名をつけにけるとぞ。
第四十七段 或人(あるひと清水(きよみづへ参りけるに、老いたる尼の行き連れたりけるが、道すがら、「くさめくさめ」と言ひもて行きければ………………
第四十八段 光親卿(みつちかのきやう、院の最勝講(さいしようかう奉行(ぶぎやうしてさぶらひけるを………………
第四十九段 ((りて、始めて道を(ぎようぜんと待つことなかれ。
第五十段 応長(おうちやう(ころ伊勢国(いせのくにより、女の鬼に成りたるをゐて………………

第五十一段~第六十段

第五十一段 亀山殿(かめやまどの御池(みいけに大井川の水をまかせられんとて………………
第五十二段 仁和寺(にんわじにある法師(ほふし、年(るまで石清水(いはしみづ(おがまざりければ………………
第五十三段 これも仁和寺(にんわじの法師、(わらはの法師にならんとする名残とて………………
第五十四段 御室(おむろにいみじき(ちごのありけるを、いかで誘ひ出して遊ばんと(たくむ法師どもありて………………
第五十五段 家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。
第五十六段 久しく(へだたりて(ひたる人の、我が方にありつる事、数々に残りなく語り続くるこそ………………
第五十七段 人の語り(でたる歌物語の、歌のわろきこそ、本意(ほいなけれ。
第五十八段 道心(だうしんあらば、住む所にしもよらじ。家にあり、人に交はるとも、後世(のちのよを願はんに(かたかるべきかは」と言ふは………………
第五十九段 大事(だいじを思ひ立たん人は、去り難く、心にかゝらん事の本意(ほい(げずして、さながら捨つべきなり。
第六十段 真乗院(しんじようゐんに、盛親僧都(じやうしんそうづとて、やんごとなき智者ありけり。

第六十一段~第七十段

第六十一段 御産(ごさんの時、(こしき落す事は、(さだまれる事にあらず。
第六十二段 延政門院(えんせいもんゐん、いときなくおはしましける時、院へ参る人に、御言つてとて申させ給ひける御歌………………
第六十三段 後七日(ごしちにち阿闍梨(あざり、武者を(あつむる事、いつとかや、盗人(ぬすびとにあひにけるより………………
第六十四段 車の五緒(いつつおは、必ず人によらず、程につけて、(きはむる(つかさ(くらゐに至りぬれば、乗るものなり………………
第六十五段 この比の(かうふりは、昔よりははるかに高くなりたるなり。
第六十六段 岡本関白殿(おかもとのくわんぱくどの、盛りなる紅梅の枝に、鳥一双(いつさうを添へて………………
第六十七段 賀茂(かもの岩本・橋本は、業平(なりひら・実方なり。人の常に言ひ粉へ(はべれば、一年(ひととせりたりしに………………
第六十八段 筑紫(つくしに、なにがしの押領使(あふりやうしなどいふやうなる(もののありけるが………………
第六十九段 書写(しよしや上人(しやうにんは、法華(ほつけ読誦(どくづの功(つもりて………………
第七十段 元応(げんおう清暑堂(せいしよだう御遊(ぎよいうに、玄上(げんじやう(せにし(ころ………………

第七十一段~第八十段

第七十一段 名を聞くより、やがて、面影(おもかげ((はからるゝ心地(ここちするを、見る時は、また、かねて思ひつるまゝの顔したる人こそなけれ………………
第七十二段 (いやしげなる物、(たるあたりに調度(てうど(おほき。(すずりに筆の多き。
第七十三段 世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、(おほくは(みな虚言(そらごとなり。
第七十四段 (あり(ごとくに集まりて、東西に(いそぎ、南北に(わしる人、高きあり、(いやしきあり。
第七十五段 つれづれわぶる人は、いかなる心ならん。まぎるゝ(かたなく、たゞひとりあるのみこそよけれ。
第七十六段 世の(おぼえ花やかなるあたりに、(なげきも喜びもありて、人多く行きとぶらふ中に………………
第七十七段 世の中に、その(ころ、人のもてあつかひぐさに言ひ合へる事、いろふべきにはあらぬ人の、よく案内(あない知りて………………
第七十八段 今様(いまやうの事どもの珍しきを、言ひ広め、もてなすこそ、またうけられね。世にこと古りたるまで知らぬ人は、心にくし。
第七十九段 何事も(りたゝぬさましたるぞよき。よき人は、知りたる事とて、さのみ知り顔にやは言ふ。片田舎(かたゐなかよりさし出でたる人こそ………………
第八十段 人ごとに、我が身にうとき事をのみぞ(このめる。法師は、(つはものの道を(て、(えびすは、弓ひく(すべ知らず………………

第八十一段~第九十段

第八十一段 屏風(びやうぶ障子(しやうじなどの、絵も文字もかたくななる筆様して(きたるが………………
第八十二段 (うすものの表紙は、(とくく損ずるがわびしき」と人の言ひしに………………
第八十三段 竹林院入道(ちくりんゐんのにふだう左大臣殿、太政大臣(だいじやうだいじん(あがり給はんに、何の滞りかおはせんなれども、珍しげなし。
第八十四段 法顕三蔵(ほつけんさんざうの、天竺(でんぢくに渡りて、故郷の(あふぎを見ては(かなしび………………
第八十五段 人の心すなほならねば、(いつはりなきにしもあらず。されども、おのづから、正直の人、などかなからん。
第八十六段 惟継(これつぐの中納言(ちゆうなごんは、風月(ふげつ(さい(める人なり。
第八十七段 下部(しもべに酒飲まする事は、心すべきことなり。
第八十八段 或者(あるもの小野道風(おののたうふうの書ける和漢朗詠集(わかんらうえいしふとて持ちたりけるを………………
第八十九段 「奥山に、(ねこまたといふものありて、人を(くらふなる」と人の言ひけるに………………
第九十段 大納言法印(だいなごんほふいん(使(つかひし乙鶴丸(おとづるまる、やすら殿といふ者を知りて………………

第九十一段~第百段

第九十一段 赤舌日(しやくぜつにちといふ事、陰陽道(おんやうだうには沙汰(さたなき事なり。昔の人、これを(まず。
第九十二段 (人、弓(る事を(ならふに、諸矢(もろやをたばさみて………………
第九十三段 牛を売る者あり。買ふ人、明日、その(あたひをやりて、(うし(らんといふ。
第九十四段 常磐井相国(ときはゐのしやうこく、出仕し給ひけるに、勅書(ちよくしよを持ちたる北面(ほくめんあひ(たてまつりて………………
第九十五段 箱のくりかたに((くる事、いづかたに((はべるべきぞ………………
第九十六段 めなもみといふ草あり。くちばみに(されたる人、かの草を(みて付けぬれば………………
第九十七段 その物に付きて、その物をつひやし(そこふ物、数を知らずあり。身に蝨あり。家に(ねずみあり。
第九十八段 (たふときひじりの言ひ置きける事を書き付けて、一言芳談(いちごんはうだんとかや(づけたる草子を………………
第九十九段 堀川相国(ほりかはのしやうこくは、美男(びなんのたのしき人にて、そのこととなく過差(くわさ(このみ給ひけり。
第百段 久我相国(こがのしやうこくは、殿上(てんじやうにて水を召しけるに………………

第百一段~第百十段

第百一段 或人(あるひと、任大臣の節会(せちゑ内辨(ないべん(つとめられけるに………………
第百二段 尹大納言(ゐんのだいなごん光忠卿(みつただきやう追儺(ついな上卿(しやうけいを勤められけるに………………
第百三段 大覚寺(だいかくじ殿(どのにて、近習(きんじふの人ども、なぞなぞを作りて(かれける(ところへ………………
第百四段 荒れたる宿(やどの、人(なきに、女の憚る事ある比にて、つれづれと(こもり居たるを………………
第百五段 北の屋蔭に消え残りたる雪の、いたう(こほりたるに、さし(せたる車の(ながえも………………
第百六段 高野(かうや証空上人(しようくうしやうにん、京へ上りけるに………………
第百七段 「女の物言ひかけたる返事(かへりごと、とりあへず、よきほどにする男はありがたきものぞ」とて………………
第百八段 寸陰(しむ人なし。これ、よく知れるか、(おろかなるか。
第百九段 高名(かうみやうの木登りといひし(をのこ、人を(おきてて………………
第百十段 双六(すごろく上手(じやうずといひし人に………………

第百十一段~第百二十段

第百十一段 囲碁(ゐご双六(すごろく好みて明かし暮らす人は………………
第百十二段 明日は遠き国へ赴くべしと聞かん人に、心(しづかになすべからんわざをば、人言ひかけてんや。
第百十三段 四十(よそぢにも余りぬる人の、色めきたる(かた、おのづから忍びてあらんは………………
第百十四段 今出川(いまでがは大殿(おほいどの嵯峨(さがへおはしけるに………………
第百十五段 宿河原(しゆくがはらといふ所にて、ぼろぼろ多く集まりて、九品(くほんの念仏を申しけるに………………
第百十六段 寺院の(、さらぬ万の物にも、名を付くる事、昔の人は、少しも求めず、たゞ、ありのまゝに、やすく付けけるなり。
第百十七段 友とするに悪き者、七つあり。
第百十八段 (こひ(あつもの食ひたる日は、(びんそゝけずとなん。
第百十九段 鎌倉の海に、(かつをと言ふ魚は、かの(さかひには、さうなきものにて、この比もてなすものなり。
第百二十段 (からの物は、薬の外は、みななくとも事欠くまじ。

第百二十一段~第百三十段

第百二十一段 養ひ飼ふものには、馬・牛。(つなぎ苦しむるこそいたましけれど………………
第百二十二段 人の才能は、(ふみ明らかにして、(ひじりの教を知れるを第一とす。
第百二十三段 無益(むやくのことをなして時を移すを、(おろかなる人とも………………
第百二十四段 是法(ぜほふ法師は、浄土宗に恥ぢずといへども、学匠(がくしやうを立てず………………
第百二十五段 人におくれて、四十九日の仏事に、(ある(ひじり(しやうじ侍りしに………………
第百二十六段 ばくちの、負(きはまりて、残りなく((れんとせんにあひては、打つべからず。
第百二十七段 (あらためて(やくなき事は、改めぬをよしとするなり。
第百二十八段 雅房(まさふさの大納言は、(ざえ賢く、よき人にて、大将(だいしやうにもなさばやと思しける比………………
第百二十九段 顔回(がんかいは、志、人に労を施さじとなり。
第百三十段 物に争はず、己れを(げて人に従ひ、我が身を(のちにして、人を先にするには及かず。

第百三十一段~第百三十六段

第百三十一段 貧しき者は、(たからをもッて礼とし、老いたる者は、(ちからをもッて礼とす。
第百三十二段 鳥羽(とば作道(つくりみちは………………
第百三十三段 (よる御殿(おとどは、東御枕(ひがしみまくらなり。
第百三十四段 高倉院(たかくらのゐん法華堂(ほつけだう三昧僧(さんまいそう、なにがしの律師(りつしとかやいふもの、或時、鏡を取りて、顔をつくづくと見て………………
第百三十五段 資季大納言入道(すけすゑのだいなごんにふだうとかや聞えける人………………
第百三十六段 医師篤成(くすしあつしげ、故法皇の御前に(さぶらひて………………

つれづれぐさ下

第百三十七段~第百四十段

第百三十七段 花は盛りに、月は(くまなきをのみ、見るものかは。
第百三十八段 「祭過ぎぬれば、(のち(あふひ不用なり」とて、(ある人の、御簾(みすなるを皆取らせられ(はべりしが………………
第百三十九段 家にありたき木は、松・桜。松は、五葉(ごえふもよし。
第百四十段 身死して(たから残る事は、智者(ちしやのせざる処なり。

第百四十一段~第百五十段

第百四十一段 悲田院(ひでんゐん尭蓮上人(げうれんしやうにんは、俗姓(ぞくしやうは三浦の(なにがしとかや、(さうなき武者(むしやなり。
第百四十二段 心なしと見ゆる者も、よき一言(ひとことはいふものなり。ある荒夷(あらえびす(おそろしげなるが………………
第百四十三段 人の終焉(しゆうえんの有様のいみじかりし事など、人の語るを聞くに、たゞ、静かにして乱れずと言はば心にくかるべきを………………
第百四十四段 栂尾(とがのを上人(しやうにん、道を過ぎ給ひけるに、河にて馬洗ふ男、「あしあし」と言ひければ………………
第百四十五段 御随身(みずいじん秦重躬(はだのしげみ北面(ほくめん下野入道(しもつけのにふだう信願(しんぐわんを………………
第百四十六段 明雲(めいうん座主(ざす相者(さうじやにあひ給ひて………………
第百四十七段 灸治(きうぢ、あまた所に成りぬれば、神事(しんじ(けがれありといふ事………………
第百四十八段 四十以後の人、身に(きうを加へて、三里を焼かざれば………………
第百四十九段 鹿茸(ろくじようを鼻に当てて(ぐべからず。
第百五十段 (のうをつかんとする人、「よくせざらんほどは、なまじひに人に(られじ。

第百五十一段~第百六十段

第百五十一段 (ある人の云はく、年五十になるまで上手に至らざらん芸をば捨つべきなり。(はげみ習ふべき行末(ゆくすゑもなし。
第百五十二段 西大寺(さいだいじ静然(じようねん上人(しようにん、腰(かがまり、(まゆ白く、まことに徳たけたる有様にて、内裏(だいりへ参られたりけるを………………
第百五十三段 為兼大納言入道(ためかねのだいなごんにふだう((られて、武士どもうち囲みて………………
第百五十四段 この人、東寺(とうじの門に雨宿(あまやどりせられたりけるに、かたは者どもの集りゐたるが………………
第百五十五段 世に(したがはん人は、先づ、機嫌(きげんを知るべし。
第百五十六段 大臣(だいじん大饗(だいきやうは、さるべき所を申し請けて(おこなふ、常の事なり。宇治左大臣殿(うぢのさだいじんどのは………………
第百五十七段 筆を(れば物(かれ、楽器を(れば(を立てんと思ふ。
第百五十八段 (さかづきの底を(つる事は、いかゞ心(たる」と………………
第百五十九段 みな結びと言ふは、糸を結び(かさねたるが………………
第百六十段 (もん(がく(くるを「打つ」と言ふは、よからぬにや。

第百六十一段~第百七十段

第百六十一段 花の盛りは、冬至(とうじより百五十日とも、時正(じしやうの後………………
第百六十二段 遍照寺(へんぜうじ承仕(しようじ法師(ほふし、池の鳥を日来(ひごろ(ひつけて………………
第百六十三段 太衝(たいしようの「太」の字、点打つ・打たずといふ事、陰陽(おんみやう(ともがら相論(さうろんの事ありけり。
第百六十四段 世の人(あひ(ふ時、(しばらくも黙止(もだする事なし。
第百六十五段 吾妻(あづまの人の、(みやこの人に(まじはり………………
第百六十六段 人間の、(いとな(へるわざを見るに、春の日に雪仏(ゆきほとけを作りて………………
第百六十七段 一道(いちだう(たづさはる人、あらぬ道の(むしろ(のぞみて………………
第百六十八段 年老いたる人の、一事すぐれたる(ざえのありて、「この人の後には、(たれにか問はん」など言はるゝは………………
第百六十九段 何事(なにごと(しきといふ事は、後嵯峨(ごさが御代(みよまでは言はざりけるを………………
第百七十段 さしたる事なくて人のがり(くは、よからぬ事なり。用ありて行きたりとも、その事果てなば、(く帰るべし。

第百七十一段~第百八十段

第百七十一段 貝を(おほふ人の、我が前なるをば措きて、余所を見渡して、人の(そでのかげ………………
第百七十二段 若き時は、血気(けつき(うちに余り、心、物に動きて、情欲多し。
第百七十三段 小野小町(をののこまちが事、(きはめて(さだかならず。
第百七十四段 小鷹(こたかによき犬、大鷹(おほたかに使ひぬれば、小鷹にわろくなるといふ。
第百七十五段 世には、心(ぬ事の多きなり。ともある毎には、まづ、酒を(すすめて、(ひ飲ませたるを(きようとする事、如何なる故とも心得ず。
第百七十六段 黒戸(くろどは、小松御門(こまつのみかど、位に即かせ給ひて………………
第百七十七段 鎌倉中書王(かまくらのちゆうしよわうにて御鞠(おんまりありけるに、雨(りて(のち………………
第百七十八段 (ある所の(さぶらひども、内侍所(ないしどころ御神楽(みかぐらを見て、人に語るとて………………
第百七十九段 入宋(につそう沙門(しやもん道眼上人(だうげんしやうにん一切経(いつさいきやう持来(ぢらいして………………
第百八十段 さぎちやうは、正月に打ちたる毬杖(ぎちやうを、真言院(しんごんゐんより神泉苑(しんぜんゑんへ出して、焼き上ぐるなり。

第百八十一段~第百九十段

第百八十一段 『降れ降れ粉雪、たんばの粉雪』といふ事、(よね((ふるひたるに似たれば、粉雪(こゆきといふ。
第百八十二段 四条大納言(しでうのだいなごん隆親卿(たかちかのきやう乾鮭(からざけと言ふものを供御(くごに参らせられたりけるを………………
第百八十三段 (く牛をば(つの(り………………
第百八十四段 相模守(さがみのかみ時頼(ときよりの母は、松下禅尼(まつしたのぜんにとぞ申しける。
第百八十五段 城陸奥守(じやうのむつのかみ泰盛(やすもりは、(さうなき馬乗りなりけり。
第百八十六段 吉田と申す馬乗りの申し侍りしは、「馬毎にこはきものなり。人の力(あらそふべからずと知るべし。
第百八十七段 (よろづの道の人、たとひ不堪(ふかんなりといへども………………
第百八十八段 (ある者、子を法師になして、「学問して因果(いんぐわ(ことわりをも知り………………
第百八十九段 今日はその事をなさんと(おもへど、あらぬ(いそぎ先づ((て紛れ暮し………………
第百九十段 (といふものこそ、(をのこの持つまじきものなれ。

第百九十一段~第二百段

第百九十一段 「夜に(りて、物の(えなし」といふ人、いと口をし。
第百九十二段 神・仏にも、人の(まうでぬ日、夜(まゐりたる、よし。
第百九十三段 くらき人の、人を(はかりて、その((れりと思はん、さらに当るべからず。
第百九十四段 達人の、人を見る(まなこは、少しも(あやまる所あるべからず。
第百九十五段 (ある人、久我縄手(こがなはてを通りけるに、小袖(こそで大口(おおくち着たる人………………
第百九十六段 東大寺の神輿(しんよ東寺(とうじの若宮より帰座(きざの時、源氏の公卿(くぎやう(まゐられけるに………………
第百九十七段 諸寺の僧のみにもあらず、定額(ぢやうがく女孺(によじゆといふ事、延喜式(えんぎしきに見えたり。
第百九十八段 揚名介(やうめいのすけに限らず、揚名目(やうめいのさくわんといふものあり。
第百九十九段 横川(よかは行宣法印(ぎやうせんほふいんが申し(はべりしは、「唐土(とうど(りよの国なり。
第二百段 呉竹(くれたけは葉細く、河竹(かはたけは葉広し。

第二百一段~第二百十段

第二百一段 退凡(たいぼん下乗(げじよう卒都婆(そとば(そとなるは下乗………………
第二百二段 十月(じふぐわつ神無月(かみなづきと言ひて………………
第二百三段 勅勘(ちよくかんの所に(ゆき(くる作法、今は絶えて、知れる人なし。
第二百四段 犯人(はんにん(しもとにて打つ時は、拷器(がうきに寄せて(ひ附くるなり。
第二百五段 比叡山(ひえのやまに、大師勧請(たいしくわんじやう起請(きしやうといふ事は、慈恵僧正(じゑそうじやう書き始め給ひけるなり。
第二百六段 徳大寺故大臣殿(とくだいじのうだいじんどの検非違使(けんびゐし別当(べつたうの時、中門(ちゆもんにて使庁の評定(ひやうぢやう行はれける程に………………
第二百七段 亀山殿(かめやまどの(てられんとて地を引かれけるに、大きなる(くちなは、数も知らず(り集りたる塚ありけり。
第二百八段 経文(きやうもんなどの(ひも(ふに、上下(かみしもよりたすきに交へて………………
第二百九段 人の田を論ずる者、(うたへに負けて、ねたさに、「その田を(りて取れ」とて………………
第二百十段 喚子鳥(よぶこどりは春のものなり」とばかり言ひて………………

第二百十一段~第二百二十段

第二百十一段 (よろづの事は(たのむべからず。
第二百十二段 秋の月は、(かぎりなくめでたきものなり。
第二百十三段 御前(ごぜん火炉(くわろに火を置く時は、火箸(ひばしして挟む事なし。
第二百十四段 想夫恋(さうぶれんといふ(がくは………………
第二百十五段 平宣時朝臣(たひらののぶときあそん(おい(のち昔語(むかしがたりに………………
第二百十六段 最明寺入道(さいみやうじのにふだう鶴岡(つるがをか社参(しやさん(ついでに………………
第二百十七段 (ある大福長者(だいふくちやうじやの云はく………………
第二百十八段 (きつねは人に食ひつくものなり。堀川殿(ほりかはどのにて、舎人(とねりが寝たる足を狐に食はる。
第二百十九段 四条黄門(しでうのくわうもん命ぜられて云はく、「竜秋(たつあきは、道にとりては、やんごとなき者なり。
第二百二十段 「何事も、辺土(へんど(いやしく、かたくななれども、天王寺(てんわうじの舞楽のみ都に恥ぢず」と云ふ。

第二百二十一段~第二百三十段

第二百二十一段 建治(けんぢ弘安(こうあん(ころは、祭の日の放免(はうべん附物(つけものに………………
第二百二十二段 竹谷乗願房(たけだにのじようがんぼう東二乗院(とうにでうのゐん(まゐられたりけるに………………
第二百二十三段 (たず大臣殿(おほいどのは、童名(わらはな、たづ君なり。
第二百二十四段 陰陽師(おんようじ有宗入道(ありむねのにふだう、鎌倉より上りて、尋ねまうで(きたりしが………………
第二百二十五段 多久資(おほのひさすけが申しけるは、通憲入道(みちのりのにふだう、舞の手の中に興ある事どもを選びて………………
第二百二十六段 後鳥羽院(ごとばのゐんの御時、信濃前司行長(しなののぜんじゆきなが稽古(けいこ(ほまれありけるが………………
第二百二十七段 六時礼讃(ろくじらいさんは、法然上人(ほふねんしやうにんの弟子、安楽(あんらくといひける僧………………
第二百二十八段 千本(せんぼん釈迦(しやか念仏は………………
第二百二十九段 よき細工(さいくは、少し(にぶき刀を使ふと言ふ。
第二百三十段 五条内裏(ごでうのだいりには、妖物(ばけものありけり。藤大納言殿語(とうのだいなごんどの語られ(はべりしは………………

第二百三十一段~第二百四十段

第二百三十一段 (その別当(べつたう入道は、さうなき庖丁者(はうちやうじやなり。
第二百三十二段 すべて、人は、無智・無能なるべきものなり。
第二百三十三段 (よろづ(とがあらじと思はば、何事にもまことありて、人を(かず………………
第二百三十四段 人の、物を問ひたるに、(らずしもあらじ、ありのまゝに言はんはをこがましとにや………………
第二百三十五段 主ある家には、すゞろなる人、心のまゝに(り来る事なし。
第二百三十六段 丹波(たんば出雲(いづもと云ふ所あり。
第二百三十七段 柳筥(やないばこ(うる物は、縦様(たてさま横様(よこさま、物によるべきにや。
第二百三十八段 御随身近友(みずいじんちかともが自讃とて、七箇条書き止めたる事あり。皆、馬芸、させることなき事どもなり。
第二百三十九段 八月(はつき十五日・九月(ながづき十三日は、婁宿(ろうしゆくなり。
第二百四十段 しのぶの浦の(あまの見る目も所せく、くらぶの山も(る人繁からんに………………

第二百四十一段~跋文

第二百四十一段 望月(もちづき(まどかなる事は、(しばらくも(じゆうせず、やがて欠けぬ。
第二百四十二段 とこしなへに違順(ゐじゆんに使はるゝ事は、ひとへに苦楽(くらくのためなり。
第二百四十三段 (つになりし年、父に問ひて云はく、「(ほとけ如何(いかなるものにか(そうらふらん」と云ふ。
跋文 這両帖、吉田兼好法師、燕居之日、徒然向暮、染筆写情者也。